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あめしょうしょう
雨瀟瀟・雪解 他七篇
永井 荷風
Read 雨瀟瀟・雪解 他七篇 (あめしょうしょう) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 145,414 characters · 289 screens
そのためか、わたくしは母がわたくしを人の家へ養女にやってから、今日まで永い年月の間わたくしを尋ねずにいた事を思い出しても、その時には母の無情を怨むような気が起って来なかったのです。母がもし立派な家の奥さんにでもなっていたなら、わたくしはかえって母を怨みもしたでしょう。また身の上を恥じて、どれほどに逢いたくても顔を見せる気にはならなかったろうと思います。母の方でもやはりそういう心持がしていたようです。お互に恥かしいと思う心持がその場合遠慮なくわたくしたち二人を引き寄せてくれたのです。
わたくしは急いで八丁堀の母の家へ出かけて行きました。母のことは大体友達のつゆ子から聞いていましたから、午後がよかろうと思って、三時頃にたずねたのです。十二、三の小女が取次に出て、二階へ上って行きました。すると、母は寐ていたものと見えて、浴衣の寝衣の前を合せながら降りて来て、
「さア、お上んなさい。よく尋ねて来てくれたねえ。」
わたくしは何と言っていいのか、胸が一ぱいになってそのままだまって下座敷の茶の間らしい処へ通りました。母は羽織をきてくるからといって二階へ上って行ったまま暫くしても降りて来ませんから、お客でも来ているのかと気がついて、また出直して来ようかと思っていると、梯子段に跫音がします。