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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
Read 雪柳 (ゆきやなぎ) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 45,054 characters · 90 screens
いや串戯はよして、内は柳町、菎蒻閻魔のすぐ傍だ。」
魚頭をつぎ、鱗をふく(宗八の言にありますね。)私窩子でもやってるのじゃないか、と思った。風がまた似ていました。柳町の裏長屋で……魚頭も鱗もない、黄肌鮪に弱った事は、――前刻に言った通りです。
その黄肌鮪だか、鬢長鮪だかと一緒に、悪酒を、なめ、なめ、
「あいかわらず、この体だ、といううちにも、一昨々年までは、台湾に一艘帆を揚げていたんだよ。ところが土地の大有力者が、妻に横恋慕をしたと思いたまえ。それのかなわない腹癒に、商会に対する非常な妨害から蹉跌没落さ。ただ妻の容色を、台北の雪だ、「雪」だと称えられたのを思出にして落城さ。」
と、羽織を脱ぐと、縞の女衣の、振が紅い。ニヤリとしながら、
「お冬、お冬、珍らしい男を連れて来たぞ。誰だ分るか、分るまい。」
薄暗そうな次の間で、人むかえの起居の気配が、と寂然やむと、
「お声で分りました。いらっしゃるなり。……小山さんです。」
間淵が菎蒻のような色をして、懐手の貧乏ゆすりで、
「酒だ、酒だ、酒を早く。」
人間どう間違えても、自惚のないものはないとか言います……少くとも私は……人として、一生に一度ぐらいは惚れられる。