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しもばしら
霜柱
山本 周五郎
Read 霜柱 (しもばしら) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,328 characters · 29 screens
「人のこった、心配しなさんな」男はせせら笑った、「どうせいつかはお仕置になる躯だ、この土地でお繩になれば親の名に箔がつく、和泉の娘にも箔がつく、なにしろ子供じぶんからの許婚者だったからな、おめえも嫁にもれえ甲斐があるぜ」
喜兵衛は躊躇なく肚をきめた。
「きさまの勝ちだ」と喜兵衛は云った、「兜をぬいだ、金は都合しよう」
「五十両だぜ」
「あさっての朝早く、鶴来八幡へ届けよう、但し、金を受取ったらその足で城下を立退いてもらおう、その約束ができるか」
「口約束でいいのか」男はまた嘲笑した、「それとも証文でも書こうか」
「約束も証文もいらない、立退くか立退かないかだ」
「金を見てからだな」男はまわりを眺めまわし、落ちている匕首を拾った、「じゃあ、あさっての朝、――待ってるぜ」
袂から鞘を出し、匕首をおさめてふところへ入れると、汚ない歯を出して笑ってみせ、痩せた肩を突きあげながら、勝手のほうへ出ていった。
喜兵衛は立ったまま、裏戸のあいて閉る音を聞き、それから「仁兵衛」と家僕の名を呼んだ。家の中はしんとして、答える声も、物音も聞えなかった。彼は行燈を持って、寝間へはいった。