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あおべかものがたり
青べか物語
山本 周五郎
Read 青べか物語 (あおべかものがたり) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 160,961 characters · 317 screens
――おめえは徳行にふじという女がいる、その女はおめえの子を産んだ、とおさいは叫んだ。この恥知らず、よくもおんだらを騙したな。
彼にはわけがわからなかった。
――しらばっくれるな、とおさいはかなきり声をあげた。おら自分でその女に会って、その女の口からじかに聞いただ、よくもあんなすべたあまと見替えやがった、もう騙されやしねえぞ。
彼は抗弁した。自分の並み外れたしゃがれ声と訥弁を呪いながら、身に覚えのないことだと証言したが、おさいは聞こうともしなかった。
――聞かね聞かね聞かね、と彼女は指が鉤のように曲った手を振りあげた。おめえの嘘っぱちなんか聞くもんか、さっさと帰れ、もう二度とふたたび来るんじゃないよ。
そしておさいは店の奥へ去った。
これははっきりわかっていることだ。彼は暫く、気のぬけたように立っていた。それから、持って来た土産の包みを、店先へそーっと置いて、そこをたち去った。
彼にそんな女があったかどうか、誰も知らなかった。東湾汽船も、葛西汽船も、徳行町が終点であった。どちらの通船も、浦粕泊りのときと徳行泊りのときがあり、蒸気乗りたちの多くは、遊ぶ場所の揃っている浦粕泊りを好んだが、中には徳行に馴染の女のいる者もないことはなかった。