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せいしゅんのぎゃくせつ
青春の逆説
織田 作之助
Read 青春の逆説 (せいしゅんのぎゃくせつ) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,593 characters · 325 screens
その言葉にその女はステップから足をおろした。
「あらいいんですの」村口多鶴子だった。
「まあ、まあ、ちょっとその辺まで送らしとくれやす」そう言って、佐古はいきなり多鶴子の耳に顔を寄せ、
「早くせんと経営者が来まっせ」意味あり気に囁いた。
その言葉と佐古の掌に押されて、多鶴子はさっと車内へ飛び込んだ。佐古はあとに続いて、中腰のまま扉を閉めながら、「帝塚山まで……」と、なかば多鶴子にきかせる気持で、運転手に命じた。多鶴子は佐古の言った行先に安心したさまで、はじめてクッションの奥へ体をずらした。そして車が動き出すと、習慣でコンパクトをちらと覗いた。眼尻の皺が夜更けの時間を見せていた。(今日いちにちの役目もやっと済んだ!)
しかし、未だ済んでいない者があった。佐古と、もうひとり豹一だ。
豹一は寒い風に吹かれながら、多鶴子が「オリンピア」から出て来るのを、浮かぬ顔で待っていたのだった。女給帰りを待ち受けているらしい男たちにまじっていると、(なんという仕事か?)と、むかむかして来た。しかし、やっと多鶴子が出て来ると、さすが豹一ははっと緊張した。なるべく多鶴子に見つけられぬようにと、後の方に並んでいる車のかげにかくれたが、多鶴子はむろんそんな方へは一瞥もくれず、さっさといちばん前の車に乗ってしまった。