Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
せいしゅんのぎゃくせつ
青春の逆説
織田 作之助
Read 青春の逆説 (せいしゅんのぎゃくせつ) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,593 characters · 325 screens
――あと見送りて政岡が……、ちらちらお君を盗見していたが、次第に声もふるえて来て、生唾をぐっと呑み込み、
――ながす涙の水こぼし……
いきなり霜焼けした赤い手を掴んだ。声も立てぬのが、軽部は不気味だった。その時のことを、あとでお君が、
「なんや斯う、眼エの前がぱッと明うなったり、真ッ黒けになったりして、あんたの顔こって牛みたいに大けな顔に見えた」と言って、軽部にいやな想いをさせたことがある。軽部は小柄な割に顔の造作が大きく、太い眉毛の下にぎょろりと眼が突き出し、分厚い唇の上に鼻がのし掛っていて、まるで文楽人形の赤面みたいだが、彼はそれを雄大な顔だと己惚れていた。けれども、顔のことに触れられると、さすがに何がなし良い気持はしなかった。
……その時、軽部は大きな鼻の穴からせわしく煙草のけむりを吹き出しながら、
「この事は誰にも言うたらあかんぜ。分ったやろ。また来るんやぜ」と駄目押した。けれども、それきりお君は来なかった。軽部は懊悩した。このことはきっと出世のさまたげになるだろうと思った。序でに、良心の方もちくちく痛んだ。あの娘は妊娠しよるやろか、せんやろかと終日思い悩み、金助が訪ねて来ないだろうかと怖れた。