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せいあどうきだん
青蛙堂鬼談
岡本 綺堂
Read 青蛙堂鬼談 (せいあどうきだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 121,438 characters · 238 screens
あの男は家有妖と書いて見せたよ。」
「むむう。」と、ほかの三人も首をかしげた。
「それじゃあ、その娘というのも何かに取憑かれてでもいるのかも知れないな。」とT君は言った。
「そうなると、我れわれの薬じゃあ療治は届かないぞ。」とM君は笑い出した。
僕たちも一緒に笑った。ふだんならばともかくも、いわゆる砲煙弾雨のあいだをくぐって、まかり間違えば砲弾のお見舞を受けないとも限らない現在の我れわれに取っては、家に妖ありぐらいは余り問題にならないのであった。
「それにしても、娘は遅いな。」
「支那の女はめったに外人に顔をみせないというから、出て来るのを渋っているのかも知れない。」
「ことに相手が我れわれでは、いよいよ渋っているのだろう。」
前面には砲声が絶えずとどろいているが、この頃の僕たちはもうそれに馴れ切ってしまったので、重砲のひびきも曳光弾のひかりも、さのみに我れわれの神経を刺戟しなくなった。僕たちはそこらに行儀わるく寝ころんで、しきりに娘の噂をしているあいだに、きょうの日ももう暮れかかって、秋の早い満洲のゆうべは薄ら寒くなって来たので、土間の隅に積んである高粱を折りくべて、僕たちは霜を恐れるきりぎりすのように竈の前にあつまった。