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あおひげにひゃくはちじゅうさんにんのつま

青髯二百八十三人の妻

久生 十蘭

Read 青髯二百八十三人の妻 (あおひげにひゃくはちじゅうさんにんのつま) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,736 characters · 28 screens

Aozora Bunko

二月二十四日の午前四時、電車道に向いた聖ピエール監獄の門前でギロチンが組みたてられた。

五時四十五分、検察官の一行と司祭と弁護士がランドリュの獄室へ入って行った。

検察官の一人が、昨夜、ポアンカレ大統領から「潔く決意するように」という言葉があったと伝えると、ランドリュは凍った指先に息をふきかけながら、

「この首も、今日あたりが斬られごろですか。麦は青いうちに刈れといいますからね」

とこたえた。

死刑執行官がシャツの襟を切りとり、髪の毛を撫でつけようとすると、ランドリュは、

「髪に触らないでください。悪い癖がつくから」

といった。

胸甲をつけた騎馬警官が監獄の門の両側に分れ、キチンと馬首をそろえている間からランドリュが出てきて、襟のないシャツとズボンだけの姿で、素足で舗石を踏みながらギロチンのほうへ歩いて行った。

ギロチンの下で両手を革紐で括られるとき、ジャフェリ博士がランドリュの耳もとでささやいた。

「元気をだすんだ、アンリ」

「ありがとう、ミートルさん、私はいつでも元気です」

ランドリュはそういって笑うと、両脇を看守に抱えられながらギロチンの上にあがった。