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かばんのかい
革鞄の怪
泉 鏡花
Read 革鞄の怪 (かばんのかい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,394 characters · 21 screens
私は熟と視て、――長野泊りで、明日は木曾へ廻ろうと思う、たまさかのこの旅行に、不思議な暗示を与えられたような気がして、なぜか、変な、擽ったい心地がした。
しかも、その中から、怪しげな、不気味な、凄いような、恥かしいような、また謎のようなものを取出して見せられそうな気がしてならぬ。
少くとも、あの、絵看板を畳込んで持っていて、汽車が隧道へ入った、真暗な煙の裡で、颯と化猫が女を噛む血だらけな緋の袴の、真赤な色を投出しそうに考えられた。
で、どこまで一所になるか、……稀有な、妙な事がはじまりそうで、危っかしい中にも、内々少からぬ期待を持たせられたのである。
けれども、その男を、年配、風采、あの三人の中の木戸番の一人だの、興行ぬしだの、手品師だの、祈祷者、山伏だの、……何を間違えた処で、慌てて魔法つかいだの、占術家だの、また強盗、あるいは殺人犯で、革鞄の中へ輪切にした女を油紙に包んで詰込んでいようの、従って、探偵などと思ったのでは決してない。
一目見ても知れる、その何省かの官吏である事は。――やがて、知己になって知れたが、都合あって、飛騨の山の中の郵便局へ転任となって、その任に趣く途中だと云う。