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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,621 characters · 25 screens
漁師たちは手わけをして、ひと手は上棚、ひと手は下棚にくぐって隈なくさがしまわったが、依然としてどこにもひとの姿はない。しまいには、下棚の底板を剥がして敷や柱床までのぞきこんだが、鼠一匹でてこなかった。
帆さきと艫に油灯がついているところを見ると、すくなくとも昨夜の六ツ半ごろまではたしかにこの船にひとのいたということは、油灯の菜種油のへりぐあいを見てもすぐわかる。
ゆうべの暮六ツどころではない。この朝、しかも、鰹船が行きあうちょっと以前まで、二十三人の乗組みがひとり残らずこの船にいたという証拠が、はっきりと残っている。
外海船では朝の八ツ半(三時)に夜組と朝組が交替するのがきまりで、夜組は船頭溜りへ入って飯をくって眠る。
艫の釜場に入って見ると、一番炊きがすんで二番炊きにかかったところと見え、五升釜の下で薪が威勢よく燃え、ちょうど飯は噴きこぼれそうになっている。流もとの大笊の中にはきざんだ切干が水を切ってあり、沢庵桶からたくあんを出しかけていたところと見え、糠の中からたくあんが半分ほど顔を出している。
船頭溜りのほうへ行って見ると、粗木の膳棚の中に食べおわった五人分のめし茶碗が押しかさねられ、長い食卓の上には食べかけになっためし茶碗と椀が四人分、いずれも飯や味噌汁をつけ、それを食べかけていた人間のようす