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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,061 characters · 22 screens
またたく間に、五十畳の広座敷はもちろん、筵敷の上までぎっしりと詰って、身動きもならない有様。気の早いのは、もう重箱をあけて盃のやりとり。早くやってくらっせえ、などとだみ声をあげている。
顎十郎も誘われて座敷の隅にいる。
そうこうするうちに、短い秋の日はとっぷりと暮れ、星がキラキラと瞬きだす。
さア、もう始まるべえ、と、ざわめき立っているうちに、作平や世話役が座敷の灯を消して歩く。
やがて、正面の幕に写しだされたのが、吉例の『福助』。
わあッ、というどよめきのうちに、楽屋からは写し絵の口上、声高々。
「……東西々々、御当所は繁華にまさる御名地と承わり、名ある諸芸人、入れかわり立ちかわり、芸に芸当を取りつくしたるそのあとに、みじくなる我々どもがまかりいで、相勤めまする極彩色写絵は、ほかの芸当とはことちがい、手もとをはなれ、灯りさきはギヤマン細工。……とど仕損じがちもござりましょうが、ごひいきをもちまして、悪いところは袖たもとにおつつみあって、なにとぞ、お引立てを願いあげ奉ります。今晩の芸題は、『安珍清姫道成寺の段』、相勤めまするは小浜太夫。おはやし、楽屋一同、そのため、口上、左様々々……」