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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,435 characters · 27 screens

Aozora Bunko

この間に提灯を消して急いで逃げ出しましょう」

「それがようごわす」

提灯を吹消して空駕籠をかつぐと、ほうほうの体で逃げだす。

かれこれもう九ツ半。頬かむりをしてスタスタ札の辻までやって来ると、いきなり暗闇から、

「おい、ちょいと待ちな、どこへ行く」

紺木綿のパッチに目明草履。ヌッと出て来て、駕籠の前後にひとりずつ。

「おお、駕籠屋か、面を見せろ」

月あかりがあるのに、いきなり袂龕灯で照しつける。

「どうぞ、ご存分に」

「やかましい。どこへ帰る」

「神田まで帰ります」

「神田のどこだ」

「佐久間町でございます」

「駕籠宿か」

「いいえ、そうじゃございません、自前でございます」

「なにを言いやがる、自前という面じゃねえ。家主の名はなんという」

「気障野目明しと申します」

「あてつけか、勝手にしやがれ。肩を見せろ」

「どうぞ、ご存分に」

「やかましい、黙っていろと言うに」

いきなり絆纒の肩を引きぬがせて、ちょいと指でさわり、

「新米だな」

「申訳けありません」

「うるせえ。……よし、もう行け」

四国町まで来ると、二丁目の角で、ちょいと待ちな、どこへ行く。

芝園橋で一度、御成門で一度、田村町で一度、日比谷の角で一度。