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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,550 characters · 27 screens

Aozora Bunko

という新店は豪勢でござったのう。祝儀は黙って五合ずつ。お手もとお邪魔さまと言って差しだしたのが、大黒さまのついた黄木綿の財布。飲むなら新店にかぎりやす。……で、捜しあてて来たやつ。

もとは江戸一の捕物の名人、仙波阿古十郎、駕籠屋と変じてアコ長となる。

相棒は九州の浪人雷土々呂進。まるで日下開山の横綱のような名だが、いずれ、世を忍ぶ仮の名。これもあっさり端折って、とど助。

居酒屋の新店をさがして歩くようでは、どのみちあまりぱっとしない証拠。

辻駕籠をはじめてからもう半年近くになるが、いっこう芽が出ないというのも、いわば因果応報。アコ長のほうは、先刻ご承知の千成瓢箪の馬印のような奇妙な顔。とど助の方は、身長抜群にして容貌魁偉。大眼玉の髭ッ面。これでは客が寄りつきません。

江戸一の捕物の名人ともあろうものが、開店祝いの祝儀酒を狙うまでにさがったってのも、またもって、やむを得ざるにいずる。

亭主は、しゃくった尖がり面をつんだして、

「お肴はなんにいたします。鰹に眼張、白すに里芋、豆腐に生揚、蛸ぶつに鰊。……かじきの土手もございます」

前垂に片だすき、支度はかいがいしいが、だいぶ底が入っている体で、そういうあいだにも身体を泳がせながら、デレッと舌で上唇を舐めあげ、