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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,904 characters · 28 screens
「まア、ひょろ松、割り箸の中からいったいなにが飛びだす」
「黒文字が出ます」
「それから?」
「恋の辻占。……あッ、なるほど、それだッ」
顎十郎は、ニヤリと笑って、
「ようやく気がついたか。鮨に曰くがあるンじゃない。その恋の辻占に文句があるンだ。……ひょろ松、その三人の鮨箱はちゃんと押えてあるンだろうな」
「へえ、そこにぬかりはございません。鮨のほうは腐ったから捨てましたが、割り箸はそっくり残っております」
アコ長は、気ぜわしく立ちあがって、
「じゃア、これから行って調べて見よう。……鮨箱の中からどんな辻占が出るか、それが楽しみだ……とど助さん、毎度のことでご迷惑でしょうが、またひとつ交際ってください。鮨じゃないがこれも腐れ縁でねえ……」
三津五郎
常盤橋御門内、北町奉行所の御用部屋。
坊主畳を敷いた長二十畳で、大きな炉を二カ所に切り、白磨きの檜の板羽目に朱房のついた十手や捕繩がズラリとかかっている。
御用部屋の中に割り箸の山をきずき、アコ長、とど助、ひょろ松の三人がその前に妙な顔をしてぼんやり坐っている。
伝馬町へひきあげてあった四十人の鰭箱を取りよせ、三人がかりで箸を割っては妻楊枝に巻きついている辻占の紙を一枚ずつ克明に読んで見たが、他愛のない駄洒落ばかりで、かくべつ、どうという文句にも行きあたらない。