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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,904 characters · 28 screens
大序より大詰めまで引きぬき早がわり五段返しをもってお目にかけます。……大人は百五十文、お子供衆はただの五十文、お代は見てのおもどり、ハア、いらはい、いらはい」
「手前どもは植金でございます。今年の趣向は例年とこと変り……」
と、声を嗄し、競って呼びこみをする。
たいした人気で、九月の朔日から月末までは根津から藪下までの狭い往来が身動きもならぬほどの人出。下町はもちろん、山の手の人びとも芝居は一度ぐらい抜いてもこの菊人形ばかりは見のがさない。
見物を目あての担売り、茶店、けんどん、安倍川餅、茶碗酒などが片がわに店を張り、白粉を塗った赤前垂の若い女が黄いろい声で客を呼ぶ。……寄っていらっしゃい。ちょうどお燗もついております。
菊人形では植木屋半兵衛の小屋がいちばん古く、人形のほかに蕎麦を喰わせる、藪下の蕎麦といって菊人形の見物につきもののようになり、菊を見たかえりには、たいていここで憩む。
鍵手に曲った土間の片がわに自慢の千輪咲きやら懸崖やらをズラリとおきならべ、そのそばで手打の蕎麦を喰わせる。土間には打ち水をして、菊の香が清々しい。それが、自慢。
その植半の奥まったところにかけているのは辻駕籠屋のアコ長と相棒のとど助、それに北町奉行所のお手先、例のひょろりの松五郎の三人。