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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,674 characters · 36 screens
手拭いに押しつつんで胸と頭へあててやると、ああ、涼しいね、と子供はよろこぶ。……あッと気がついたときには、もう、ひとかけらの氷もない」
顎十郎はいつになく、しおっとして、
「いやどうも、気の毒な話ですな。……それで、どうしました」
「しまったと思ったが、もう遅い。……桐箱をかかえてボンヤリあたしのところへやって来て、ありようをくわしく話し、これから真砂町の自身番へ名のって出るつもりだから、どうか伜のことはおたのみ申す。……誓って、手前が盗ったのではありませんから、かならず疑いはとけると思います、誠意を披瀝し、一日も早くもどってまいりますから、なにとぞ、不憫とおぼしめして……。いかにもあわれな話ですから、あとのことはたしかに引きうけたからと申しますと、みすぼらしいほど礼をのべ、家ぬし同道で自身番へ行きました」
顎十郎は首をふって、
「ああ、そいつは、いかんな」
隠居はうなずいて、
「……いけないというのには、こういうことがあります。……氷を貰いそこねてクヮッと逆上し、氷見役人の前で、どうでもくれぬというなら、これからお氷の駕籠を追いかけて、かならず奪って見せるからと、丼をたたきつけ、えらい形相でその場から駈けだした……」