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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,819 characters · 26 screens
「いや、まったく。これで楽が出来る」
「……それで乗せましたら、外から見えませんようにシッカリと垂れをおろしていただきます」
「いかにも、承知した」
「それから、犬が寄って来ましたら追ってくださいまし」
「仮りにも、片道二両の客だ。決して粗略にはせんから安心しろ」
「有難うございます」
アコ長は、息杖を取りあげて、
「では、とど助さん、そろそろお伴するとしようか」
「ああ、まいるとしよう。さア、お狸さま、どうぞ、お乗りなさいまし」
雲が切れて、月が出る。
狸を乗せて、六本木から溜池へおりる。お濠の水に、十日月の影。
狸は、いい気持そうに揺られながら、
「駕籠屋さん、いい月ですね」
「ああ、いい月だな。腹鼓でも打たんかい」
「あれは秋のものですよ。こう寒くちゃ、とてもいけません、腹が冷えますから」
葛西囃子
狸穴坂の欅の樹の下で待っていると、毎晩ひとりずつチョロリと暗闇から出て来る。
「たぬきか?」
「はい、たぬきです」
「さア、乗れ」
「連れて行ってくださいまし」
堅気なふうなのもあり、武士もあり、また衣をつけてくるのもある。いずれもひと癖あり気な、眼のキョロリとしたやつばかり、人間ならば、人相が悪いというところ。