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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,040 characters · 26 screens
小松川すじの飼場濠には、水蛭が多く棲んでおるゆえ、創のかたちをもって案ずれば、水蛭の咬み傷と見て見られぬこともない。しかし、水蛭の咬み傷とすればただ一カ所というのが不審。それに、それしきの傷で鶴が死するはずがない。また前例もないこと」
甲斐守は膝をにじり、
「して、石庵の検案は」
「刺傷らしいと申す」
といって、言葉を切り、
「……かりに刺傷だとして、しからば何者がなぜにそのようなことをいたしたか、その理由がげせない。お鶴を刺しころして見たとて、なんの利分もあるまい。……狂気か酔狂か。……まず、そうとしか考えられぬ」
播磨守はうなずいて、
「いかにも、そのへんが不審」
「このたびの鶴御成は、儀式のお鷹狩のほか、すこやかな『瑞陽』のすがたを御覧になる思召しもあられたので、上にはことのほか御落胆。死因をきわめて、ぜひともその理を分明させよとのお達しである。……それはそうと……」
といって、播磨守の顔を眺め、
「そのほうの下役、仙波阿古十郎というは、まことに奇妙なやつの。もと甲府勤番の伝馬役であったと申すが、なにしろ、ふしぎな理才を持っておるよし」
播磨守は、誇らしげにうっすらと面を染め、