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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,028 characters · 28 screens
ひとりが胴巻から先刻の手紙をひきずりだし、
「先生、こんなものが」
うけとって眺め、
「なんだ……池さまへ、藤より……。大師流のいい手蹟だ。こいつ文づかいもすると見える。とても陸尺なんぞの書ける字じゃねえ」
ドッと笑って、
「それはそうと、こいつの始末はどうします」
「かまわねえから、ぐるぐる巻にして隅っこへころがしておけ。朝になったら百叩きにして放してやろう」
蓑虫のようにグルグル巻にされたのを見すますと、
「よし、お前らは、しばらくあっちへ行っていろ。俺は、ちょっとこいつに意見をしてやる」
陸尺どもは、先生はあいかわらず酔狂だと口々に囃しながら、部屋つづきへひきあげて行く。
顎十郎は、板の間にころがされて眼をとじている藤波のそばにしゃがみこみ、
「ときに、藤波さん、寝ごこちはどうです。まんざら悪くもないでしょう」
藤波はくやしそうに、キリッと歯噛みをする。
顎十郎は、へらへら笑いだして、
「まア、そう、ご立腹なさるな。……どういう御縁か知らないが、よく不思議なところで落ちあいますな。御同慶のいたりと言いたいところだが、実をいうと、すこし、小うるさい。……今までのところなら、大して邪魔にならないが、今度は、南か北かという鍔ぜりあい。