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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,707 characters · 20 screens

Aozora Bunko

「まあまあ、そうご立腹をなさるな。……それはそうと、いまさっき、なにかしきりにコソコソやっていられたが、贋金でもつくっていたのですか」

庄兵衛はうろたえて、

「ぷッ、冗談にもほどがある。……出まかせをいうのも、ほどほどにしておけ」

「てまえが入って来ると、あわてて本でかくしなさったようだが、いったい、なにをしていらしたんです」

庄兵衛は、いよいよもって狼狽し、からだで文机をかくすようにしながら、

「ええ、なにもしておらぬともうすに」

「そんなら、その本をとってお見せなさい」

といいながら、文机のほうへ手をのばしかける。

庄兵衛は、やっきとなって、顎十郎の手をはらいのけながら、

「これ、なにをする……横着なまねをするな……寄ってはならんともうすに」

「いいからお見せなさい」

「ならん、ならん」

揉みあっているところへ、庄兵衛の秘蔵ッ娘の花世が入ってきた。

ことし十九になる惚々するような縹緻よしで、さすが血すじだけあって、こだわりのない、さっぱりとした、いい気だてを持っている。顎十郎とは、この上なしの言葉がたきで、またごくごくの仲よしでもある。

花世は、父と顎十郎のあいだへ、わざと割りこむようにして坐って、あどけなく首をかしげながら、庄兵衛に、