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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,832 characters · 24 screens

Aozora Bunko

と、ノッソリと部屋を出て行く。

植木屋は、そのあとを見送るとそそくさと錦明宝を棚からおろし、息をはずませながら万年青を諸手掴みにする。

出て行ったと思った顎十郎は、すぐ戻って来て、棚のほうを指しながら、

「おっと、ちがった、霧噴きは棚の下の木箱の中にある筈だ」

職人はハッと万年青から手を離すと、棚の下へ首を突っこんで箱の中を探していたが、

「へえ、ございました。……では、お水を少々」

「水なら、この水差しのやつを使え」

「結構でございます……それから、申しかねますが、三盆白を少々……」

「砂糖を……どうする?」

「これが、あっしどもの口伝なんでございまして、葉の合口へ少々ふりこんでやりますと、不思議に生気がつきます」

「おお、そうか、わけのないことだ……いま持って来てやる」

出て行ったと思うと、またすぐ戻って来て、

「叔父が書見の合間に舐める氷砂糖が、この蓋物に入っている。……これを溶かして使え」

「へえ」

「なにかまだ要るものがあるか」

職人はハッハッと肩で息をして、

「割箸を一ぜん……副木をやるので……」

「割箸なら眼の前にある。……蓋物の横についている」

「へえ」