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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Read 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) by 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 18,022 characters · 36 screens
事件にて病死の体でお暇を賜わった本性院伊佐野の局、御側役八重、それらの者で家定公御双生の御兄君捨蔵様の御居所を存じおる如くに見せかけ、それを以て水野は上様を圧しつけて復職を強請したわけですが、実のところそのようなことはなく、昨年九月、八重が神田紺屋町なるお沢と申す者を襲って奪った捨蔵様の御居所を示す『大』という一字を認めたものが、手にあるだけでございます。
現にお八重は昨日国府台のあたりへ所在を探索に行っているほどで、これを以っても彼等の一味は、まだ捨蔵様の居所を知っていないという証拠になるのでございます。鳥居甲斐守は組下の目明し下っ引を追いまわして昨年暮から密かに大探索を続けておりまするが、まだ確かな手掛りはない様子でございます。
実情はこの通りでございますが、なお洩れ聞くところでは水野の一派は捨蔵様の御居所を捜しだし、これを擁立して御分家を強請し、己等一味の勢力を扶殖し、同時に阿部伊勢守を打倒する具に使おうとする意志のよしでございます。以上
将軍
「悧巧なようでもやっぱり女。……田舎ものだと、てんから嘗めてかかったのが向うのぬかり。袖にした情夫が、いずれそれくらいなことはするだろうと見こんで、女には寄りつけない評定所のことだから、風来坊のおれにこんな仕事をやらせたのだろうが、おれのほうとすれば、思い