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たかちほにおもう
高千穂に思う
豊島 与志雄
Read 高千穂に思う (たかちほにおもう) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,292 characters · 11 screens
無数の島々が大東亜海に新たな生成をなしつつある時代だ。島と島とは海で繋っている方がよろしい。九州も島だが、それと陸続きにならないで、桜島はやはり永久に小島のままであってほしかった。
桜島は雲にかくれてゆく。梅雨期の天候は変りやすい。顧みれば、御鉢火口の反対側は、全く濃霧にとざされている。私は道を急がねばならない。
火口のふちを左手に進むところが、所謂馬の背越である。右側は火口の斜面、左側も殆んど断崖に等しい急斜面、その間の砂礫の道が、馬の背ほどの広さだという謂であろう。
この馬の背越は、大抵風が強い。風は左側の断崖から吹きあげてくる。その風に乗って、ただ一面に濃霧だ。濃霧は馬の背越の頂で、ふっと切れて巻き返している。波のように湧きあがってくる乳色の霧は、その尾根の上で巻き返すとたん、牛乳が水に融ける程度に、薄らいで消えてゆく。
その濃霧の底から、遙かな下方から、幅広い澄んだ声が聞えてくる。耳を傾けると、仏法僧の鳴き声である。二三ヶ所から、互に鳴き交している。仏法僧は夜間に鳴くものと聞いていたが、濃霧のため、昼と夜とを混同したのであろう。だが、山上の濃霧のなか、遙か下方から響いてくるその鳴き声は、仏法僧の別名たる慈悲心鳥の名にはふさわしくなく、慈悲を絶した天上的な明朗さを持っている。