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おに
鬼
江戸川 乱歩
Read 鬼 (おに) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,138 characters · 60 screens
「偶然だ。恐ろしい偶然だ」
幸吉は妙なことを呟きながら、救いを求める様に、国枝予審判事のうしろに立っている人物を眺めた。
そこには幸吉の親友の探偵小説家殿村昌一が、気の毒そうな顔をして佇んでいた。彼がどうして、この調べの席に、しかも調べる人々の側に列していたかというに、昌一は国枝予審判事と高等学校時代の同級生で、現在も文通を続けている友達であったからだ。作者は物語の速度をにぶらせまい為に、この両人の偶然の邂逅の場面を態と省略したのである。
両人がそんな間柄であったから、判事は取調べに際して、何かと好都合であったし、又探偵作家の殿村にとっては、犯罪事件の実際を見学する好機会となった。彼は事件の証人として、友達の予審判事から一応の取調べを受けたが、それが済んでも退席せず、人々の暗黙の了解を得て、その場に居残っていた訳である。
で、今大宅幸吉が、N市へ往復した自動車について質問を受け、顔色を変えて妙なことを呟いたのを聞くと、殿村はハッとしないではいられなかった。彼は幸吉の苦しい立場を大方は推察していた。昨夜はN市に住む恋人に逢いに行ったのに違いない。幸吉はそれを隠す為にアリバイを犠牲にしようとさえしているのだ。