Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

Read 鳴門秘帖 (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 56,957 characters · 114 screens

Aozora Bunko

赤い前垂をかけた宿引の女が、ぶかっこうな杉下駄をはいて猫じゃらしの帯をふりながら、向う側とこっち側で、互いに腕にヨリをかけるのはその時分で、

「かしわ屋でございます、かしわ屋はこちらでございます」

「桔梗屋は手前どもで、昨年もごひいきになりました」

「ハイ、越後屋でございます」

「お馴染の鍵屋はこちらでございます」

喋々とさえずるばかりでなく、信濃そだちの強力で、笹をひッたくる、振分を預かってしまう、合羽の袖にほころびをこしらえる。文句をいえば、晩にわたしが縫ってあげます――と上手に見る。またそういうのに宿引女の極伝があるそうで、わざとほころびをきらす女ばかり抱えておく別宿もあったりする。

なにしろ、大湯の横にひッついている湯番小屋で、五刻の拍子木を打ち、導引の笛がヒューと澄む頃までは、このかしましさがやまないのである。

「ホイ」

「ここだな」

「会田屋さん、お客様だぜ」

下ノ湯の角にある大きな宿の店先へ、二挺の駕がおろされた。

「ご苦労様」

「駕屋さん、こちらへ掛けて一服お吸い」

「ようお着きなさいました」

「お洗足水を」

「いえ、お荷物はこちらへ」

女中や番頭に取り巻かれて、すすぎ盥の前へ腰かけたのは、商家の内儀らしい年増の女と、地味な縞ものを着た手代風の男であった。