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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
Read 黒死館殺人事件 (こくしかんさつじんじけん) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 296,741 characters · 584 screens
「つまり、きっと犯人の冷笑癖が、結局自分の墓穴を掘ってしまったのだよ。試しに水精と、性別転換の行われてない火精とを比較して見給え。必ずその解答が、前例の二つとはてんで転倒した犯行形式に違いないのだ。犯人は隠微な手段を藉らずに、堂々と姿を現わして、ブラッケンベルグ火術の精華を打ち放すだろう。勿論標尺と引金を糸で結び付けて、反対の方向へ自働発射を試みるようなことはやらんだろうし、汁で縮むレットリンゲル紙を指に巻いて、引金に偽造指紋を残すような陋劣な手段にも出まい。云わば、いっさいの陰険策を排除した騎士道精神なんだよ。しかし、僕等にもしこの用意がなかった日には、前例の二つに現われている、複雑微妙な技巧に慣れた眼で、必ずや錯覚を起すに違いないのだ。つまり、そこに犯人が目論んだ、反対暗示があると云う訳だが、……今度こそは嗤い返してやるぞ」
勿論その一言は、今後の護衛方法に決定的な指針を与えるものに相違なかった。けれども、こうして法水の知脳が、次回の犯罪において全く犯人の機先を制したかのように見え、ことに火精の一句が、結局犯人の破滅を引き出すかの観を呈したのだったけれども、従来彼対犯人の間に繰り返されていった権謀術策の跡を顧みると、法水の推断を底とするのが、まだまだ早計のようにも思われるではないか。