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くろゆり
黒百合
泉 鏡花
Read 黒百合 (くろゆり) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 78,148 characters · 154 screens
といいながら、お雪と島野を交る交る、笑顔でしても豪傑だから睨むがごとし。
二十七
島野は持余した様子で、苦り切って、ただ四辺を見廻すばかり。多磨太は藁草履の片足を脱いで、砂だらけなので毛脛を擦った。
「蚋が螫す、蚋が螫すわ。どうじゃ、歩き出そうでないか。堪らん、こりゃ、立っとッちゃあ埒明かん、さあ前へ行ね、貴公。美人は真中よ、私は殿を打つじゃ、早うせい。」
島野は堪りかねて、五六歩傍へ避けて目で知らせて、
「ちょいと、君、雀部さん、ちょいと。」
「何じゃ、」と裾を掴み上げて、多磨太はずかずかと寄る。
島野は真顔になって、口説くように、
「かねて承知なんじゃあないか、君、ここは一番粋を通して、ずっと大目に見てくれないじゃあ困りますね。」と情なそうにいった。
「どうするんかい、」
「何さ、どうするッて。」
「貴公、どこへしょびくんじゃ、あの美人をよ、巧く遣りおるの。うう、」と団栗目を細うして、変な声で、えへ、えへ、えへ。
「しょびくたって何も君、まったくさ、お嬢さんが用があるそうだ。」
「嘘を吐けい、誰じゃと思うか、ああ。貴公目下のこの行為は、公の目から見ると拐帯じゃよ、詐偽じゃな。