Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いのちのしょや

いのちの初夜

北条 民雄

Lesen Sie いのちの初夜 (いのちのしょや) von 北条 民雄 (ほうじょうたみお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 31.366 Zeichen · 63 Bildschirme

Aozora Bunko

しまったと足を抜こうとするとまたずるりと吸い入れられる。はや腰までは沼の中だ。藻掻く、引っ掻く、だが沼は腰から腹、腹から胸へと上って来る一方だ。底のない泥沼だ、身動きもできなくなる。しびれたように足が利かない。眼を白くろさせて喘ぐばかりだ。うわああと喚声が頭上でする。あの野郎死んでるくせに逃げ出しやがった。畜生もう逃さんぞ。逃すものか。火炙りだ。捕まえろ。捕まえろ。入り乱れて聞こえて来るのだ。どすどすと凄い足音が地鳴りのように響いて来る。ぞうんと身の毛がよだって脊髄までが凍ってしまうようである。――殺される、殺される。熱い塊が胸の中でごろごろ転がるが一滴の涙も枯れ果ててしまっている。ふと気付くと蜜柑の木の下に立っている。見覚えのある蜜柑の木だ。蕭条と雨の降る夕暮れである。いつの間にか菅笠を被っている。白い着物を着て脚絆をつけて草鞋を穿いているのだ。追っ手は遠くで鯨波をあげている。また近寄って来るらしいのだ。蜜柑の根もとに跼んで息を殺す、とたんに頭上でげらげらと笑う声がする。はっと見上げると佐柄木がいる。恐ろしく巨きな佐柄木だ。いつもの二倍もあるようだ。