Japanische Klassiker mit Furigana
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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
Lesen Sie うすゆき抄 (うすゆきしょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.454 Zeichen · 59 Bildschirme
あの笑顔が忘れられない。思わせぶりな眼配せをしていたが、なにをいうつもりだったのだろうというようなことをくよくよと思い返していたわけだったろうが、先方は相模一の有徳人の一ノ姫で、こちらは自ら耕すほか食うあてのない貧郷士というのでは、問題にもなるものではない。夜討師の血脈のほうは隠しおおせることが出来ても、貧富に架ける橋はない。とうてい結ばれるはずもない縁なのだから、あてどのない恋にあくがれてこの世の憂きを増そうより、思いきりよく忘れてしまうにかぎると、翌朝早く起きだし、金鍬を担いで谷窪へ降りて行くと、誰がやったのか田も畑も一夜のうちに綺麗に除草され、南下りの段畑には、秋蒔の麦までおろしてあるという恠異に遭遇することになった。
こういう異変は一と月ほどのあいだ毎夜のようにつづき、追々、図に乗って、裏の納屋に米麦の袋を投げこんだり、眠っているうちに屋根の葺きかえをしたりするようになった。先年、父の小太郎が死んだのち、おおよそ千人ほど居る相模の乱破は、足柄下郡の聖山から箱根街道に沿った鷹巣山へ野館を移したということで、これできっぱりと風摩と縁切りになったものと、ひとりぎめして安心していたのだったが、先方は義理固くて大将の遺孤を見捨てる気は夢さらない。