Japanische Klassiker mit Furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme
あっちへ行ってておくんなさい」
「ほんにまァ、ここへは来るのじゃなかったッけ」
三日前の夜の四つ頃、浜町からの使いといって、十六七の男の子が、駕籠に乗った女を送って来たその晩以来、お岸はおせんの口から、観音様への願かけゆえ、向う三十日の間何事があっても、四畳半へは這入っておくんなさいますな。あたしの留守にも、ここへ足を入れたが最後、お母さんの眼はつぶれましょうと、きつくいわれたそれからこっち、何が何やら分らないままに、おせんの頼みを堅く守って、お岸は、鬼門へ触るように恐れていた座敷だったが、留守に誰かが這入ったと聞いては、流石にあわてずにいられなかったらしく、拵らえかけの蜆汁を、七厘へ懸けッ放しにしたまま、片眼でいきなり窺き込んだのであろう。
部屋の中は、窓から差すほのかな月の光で、漸く物のけじめがつきはするものの、ともすれば、入れ換えたばかりの青畳の上にさえ、暗い影が斜めに曳かれて、じっと見詰めている眼先は、海のように深かった。
母は直ぐに勝手へ取って返したと見えて、再び七厘の下を煽ぐ渋団扇の音が乱れた。
暗い、何者もはっきり見えない部屋の中で、おせんはもう一度、じっと鏡の中を見詰めた。