Japanische Klassiker mit Furigana
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さようなら
さようなら
田中 英光
Lesen Sie さようなら von 田中 英光 (たなかひでみつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.251 Zeichen · 44 Bildschirme
小説の嘘で、現実的には貧しく無知な女はそれだけ世の中から傷つけられ歪みっぽく疑い易い野良猫じみた性質になっていて、ぼくはそんな妻の復讐心に自分の才能を無心に誇っては噛みつかれ、不用意に彼女を救ったと仄めかしただけでも爪をたてられ、一日として彼女を妻にしたことに悔いのなかった生活はなかった。そこに戦争、出征が続いたので殺伐とした軍隊の雰囲気から、ぼくのほうにそんな妻でも稀に逢ったり、慰問品を送られると天使のように優しい錯覚があり、妻のほうにも、出征軍人の妻との無知な悲しみと誇りがあり、ふたりの家庭の破綻が一時、防がれたばかりか、出征や疎開の前後に子供が四人まで生まれる結果となったが、さて敗戦になり、平和な日を迎えると、十年前になら恐らくふたりだけの別離で済んだ家庭の悲劇が、戦いの嵐に目かくしされ、十年いきのばされたお蔭で、四人の子供たちという堪えがたい犠牲者を伴なう大破局に発展してしまった。
敗戦と同時にぼくは会社を馘になったが、宿望の文学生活だけにうちこめると気負いたった気持だったのに、苦労しぬいてきた女として妻は貧乏と冒険を憎悪し、ぼくのペン一本の生活力を危ぶみ、しきりに再び就職を勧め、ぼくの気持に水を差した。