Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

Lesen Sie その木戸を通って (そのきどをとおって) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.448 Zeichen · 44 Bildschirme

Aozora Bunko

三

「私は貴女を知らない」と正四郎は云った、「貴女はこの私を知っていますか」

娘はうなだれたまま、ゆっくりと、かすかにかぶりを振った。

「私が貴女を知らず、貴女も私を知らないのに」彼は容赦なく云った、「どうしてここへ訪ねて来られたのですか」

三

娘はうなだれたまま、それが自分でもわからないのだ、と囁くような声で答えた。正四郎は娘をみつめていた。芝居をしてもだめだ、こんな子供騙しにひっかかるような正さまじゃあねえ、お門ちがいだと、心の中であざ笑いながら。たぶん泣きだすだろうと思ったが、娘は泣かなかった。

「どういうことなのでしょうか」と娘はゆったりとした口ぶりで云った、「平松正四郎さまというお名のほか、わたくしなにも覚えておりませんの、自分がどこから来たかも、なんという名であるかも、どうしてここへまいったかも、まるでものに憑かれたか、夢でもみているような気持でございます」

「では私にもどうしようもないですね」正四郎は冷淡に云った、「――人を訪ねる約束がありますから、これで失礼します」

そして彼は立ちあがった。

家扶の吉塚は、どうだったか、と訊いた。正四郎はわからないと答えた。