Japanische Klassiker mit Furigana
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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
Lesen Sie ズラかった信吉 (ズラかったしんきち) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 54.656 Zeichen · 110 Bildschirme
冗談か? そうじゃない。何すんだ! 不意をくらった信吉が思わず肱で娘をよけようとした拍子に、ヤカンからちょんびり湯がこぼれた。娘の足にそれがかかった。娘は大業な悲鳴をあげた。
瞬間の出来ごとだった。が、忽ちまわりに人がたかって来た。
何だい。
どうしたんだ。
支那人じゃないか?
すると娘は、涙も出ていないのに甲高な啜りあげるような早口で、何か訴える。何を云うのかわかりゃしない。
信吉は面倒だから、人の間をぬけて出てしまおうとした。どっこい! いつの間にか、四十がらみの黒ルバーシカを着た大きい男が信吉の肱を軟かく、しかし要領よく掴んでいる。
「買ったんだよ! 買ったんだよ! うるせえ奴だナ」
それをおっかぶせて、娘がまた啜りあげるような早口でまくしたてる。――
途方にくれた信吉が、そのときオヤという顔をして人だかりのあっちを見た。視線を追って、数人がそっちを見た。
何だ?
――日本人だ。
いい装をしているんで、尊敬をふくんだ云いかただ。
話しながらブラリ、ブラリこっちへやって来ていた二人の日本人は、その声でヒョイと顔を向けた。そして、立ちどまった。
「何です?」