Japanische Klassiker mit Furigana
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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
Lesen Sie ズラかった信吉 (ズラかったしんきち) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 54.656 Zeichen · 110 Bildschirme
ゆっくり厚紙の表紙をめくりながら、
「チホーン・アルフィモヴィッチ・グリーゼル」
ソラ来た!
信吉はびんとなって、ベンチからのり出した。いよいよ親父の番だゾ。
返事がないんで、女裁判官がもう一度、
「チホン……」
と云いかけたとき、
「ここです」
思いがけず、赤い布をかけたテーブルの直ぐわきに立ってる一かたまりの群集を肩でわけて、グリーゼルが剛腹そうな坊主頭で現れた。
「エレーナ・アレクサンドロヴナ・パタキン」
布団にくるんだ乳呑児を両手で抱えた弱そうな若い女が、グリーゼルと並んで立った。図体の大きいグリーゼルのわきで、女は彼の娘ぐらいの小ささに見えた。
「本事件はエレーナ・アレークサンドロヴナ・パタキンによって、チホーン・アルフィモヴィッチ・グリーゼルに対して提起された養育費請求に関する訴訟です」
爺め! 信吉は変な気になった。
だって、この見栄えのしない小さな女とは一つ建物に棲んでいて、朝晩見かける。グリーゼルと、内庭のベンチに並んで腰かけたりしているのを見たこともある。
そんなときでも親父は、パイプをくわえて、相変らず意地わるいドロリとした眼付で物も云わずかけている。