Japanische Klassiker mit Furigana
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ひとつのできごと
一つの出来事
宮本 百合子
Lesen Sie 一つの出来事 (ひとつのできごと) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.024 Zeichen · 23 Bildschirme
耳を欹(そばだ)てて怪しんでいる私の頭の上を、人は依然としてカタリコトリと動いて行く――、瞬間に昨夜のことを思い出した私の目前には、明け放して来た寝室や、紙の散らばった机の上の様子が電光のように通り過ぎた。いつの間にか唇を噛んで下を向ていた頭を持上げると、私は大急ぎで戸外にいる彼のところまで出かけて行った。
「グランパ、私の部屋へ誰か登って行く」なぜだか分らないが、私の唇からはひとりでに囁くような小さい声が出た。
あまり小さい声だったので聞えなかったのだろう。
「え?」と云いながら振向く彼の顔の真正面で、私は「誰か部屋へ行くことよ!」と叱るようにムキな声を出した。
変に緊張して強直した感じが体中に漲って、私を自由に歩かせない。卓子(テーブル)の前まで戻って来ると、世界が急に真黒になりはてたように、何にも彼にもに気がなくなった私は、ぼんやりと食べかけの卵に小さい羽虫が飛びつくのを眺めていた。
彼が行った頃三階にはもう誰もいなかったそうだ。しかし入口の扉は確に閉めて置いたのに明け放してある。人の気勢を感じて、大急ぎで二階へ戻ってしまったのだろう――。
彼も明かに不愉快を感じているらしい。