Japanische Klassiker mit Furigana
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せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる
一九三二年の春
宮本 百合子
Lesen Sie 一九三二年の春 (せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.942 Zeichen · 44 Bildschirme
「――知らないかナ。蔵原ですよ」
わたしは我知らず顔を近づけ、さらに手にとりあげてその写真を見た。洋服姿の古い写真をいつか見た覚えはあるが、こんなのは初めてであり、本物かどうかさえよく分らない。写真の裏をかえして見たら、白いところに蔵原惟人、当年三十二歳と書いてある。
「つかまったんですか?」
「あんなに新聞にデカデカ書き立てたじゃないですか」
「新聞なんか見せないから分らない。――見せて下さいな、それを」
「見せてもいいですが」
そういうぎりである。特高は椅子から立とうともせず、モスクワで会っているだろうなどといった。それにしても、一体この蔵原の写真は、どこでどんな時撮ったものだろう。わたしはもう一遍その写真を見直しながら、
「この写真、どこでとったんですか」と訊いた。
「捕まると直ぐとったんだ」
「うちで?」
特高は曖昧に合点のようなことをした。彼らが同志たちをその家へ捕えに行くとき、あらゆる武器をもってゆくことは聞いているが、写真班を同伴していったという話は、ついぞ聞かない。
警察で写真をとられる。そうだとするとこの蔵原の写真の背景は妙だと思った。閑静そうな庭の様子が納得出来ない。