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Japanische Klassiker mit Furigana

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いちにんならじ

一人ならじ

山本 周五郎

Lesen Sie 一人ならじ (いちにんならじ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.312 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

……甲斐へ凱旋して間もなく、東堂舎人助は娘の初穂と栃木大助との婚約の披露をした。これは真冬の雷のように人々をおどろかした。東堂の娘はまだ十六ではあるが、利発な生いたちとぬきんでた縹緻とで評判だった、甲府の若ざむらいたちのなかには、まだ見ぬ恋にあこがれる者も少なくなかったのである。それが人もあろうに栃木大助と婚約を結んだというのだからおどろきもし呆れもした。……もういちど人々の前に、彼の名が新しく甦ったというのはこのときのことだ。「そういえばそんな男がいた」と思い当り、「だがそれにしても東堂どのはどこを見込んだのだろう、あの男のどこにそんなねうちがあるのだろうか」そういってまた暫くのあいだ栃木大助の噂が人々の口にのぼった。

婚約はしたが祝言は一年さきということだった。大助は約束の盃をするとき初めて初穂に会ったが、むろん姿をちらと見たくらいのもので、評判の美しい顔かたちがどんなだったかほとんど印象に残らなかった。それから三日にいちどずつ東堂の家を訪ねるが、娘は決して姿をみせない。或るとき訪ねると遠くの部屋から横笛の音が聞えてきた、――あの娘だな、そう思って暫く耳を傾けていたが、たしかめたわけではないから事実それが初穂であったかどうかわからなかった。