Japanische Klassiker mit Furigana
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いっぽんのはな
一本の花
宮本 百合子
Lesen Sie 一本の花 (いっぽんのはな) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.709 Zeichen · 55 Bildschirme
朝子は何となし厭な心持がした。
二階で親父が若い給仕娘をその室から走り出させたりしているのを、嘉造は知っているのだろうか。朝子は二重に厭な心持がして、社長室のリノリウムを踏んだ。
建坪の工合で、校正室は、社長室を抜けてでないと行けなかった。朝子は、黙って軽く頭を下げ、通りすぎた。磯田は、机のこちら側に立って、煙草に火をつけかけていた。彼は、下まぶたに大きな汚点のある袋のついた眼を細め、マッチを持ち添えスパスパ火をよびながら、
「や」
と曖昧に声をかけた。
校正室では備えつけの筆がすっかり痛んでいる。
朝子はベルを鳴らして新しいのを貰い、工場から持ってきたばかりで、インクがまだ湿っぽい校正を、検べ始めた。
下手な応募俳句を読み合わせているところへ、ぶらりと磯田が入って来た。
「――大分凌ぎよくなって来ましたなあ、久しくお見えなさらんようでしたが、海辺へでもお出かけでしたか」
「ずっと東京でした……あなたは? いかがです、その後」
「やあ、どうも」
白チョッキの腹をつき出して、磯田は僅に髪の遺っている後頭部に煙草をもった手を当てた。
「年ですな一つは……一進一退です。