Japanische Klassiker mit Furigana
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ひとすじのなわ
一条の縄
宮本 百合子
Lesen Sie 一条の縄 (ひとすじのなわ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.201 Zeichen · 11 Bildschirme
「ああ、
一寸待って、おい、一寸待って御呉れったら。
ああ、あ! 待っておくれって云うのに、
行っちまっちゃいやだよ、ああ一寸……
けれ共雌鴨の姿はすぐ見えなくなって仕舞った。
彼はもう夢中であった。
「どうしても逃げなけりゃならない。
「どうしても生きなきゃならない。
と云う願望が、気違いの様に羽ばたきをさせたり、空な足掻きをさせたりした。
白と黒の細かいだんだらの腹を、月の光りにさらしながら、頸ばかりを長く振りのばして、悲しい声に彼は叫びつづけたのである。
「何と云う事になったのだ!
彼は、自分を喰い殺して仕舞い度い程の、いまいましさと自放自棄を感じた。
散々叫びつづけ、鳴きつづけて喉もかれがれになると、彼はあきらめた様にだまり返って仕舞った。
そして、今の有様の体を少しでも楽にさせるために、ぴったり背中を地面につけて、死んだ魚の様な形をとったのである。
彼は激動の後の静かな心持で、もう恐らくは死ぬまで会う事の出来ないだろう、今飛び去った雌鴨の事を思い出して居た。
此の、ほんの一寸の前までの、彼の幸福彼のよろこびが、今斯うやって命まで投げ出して醜い姿になって居る自分の物だったのだと云う事は、自分ながら信じられない事である。