Japanische Klassiker mit Furigana
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しゃんはい
上海
横光 利一
Lesen Sie 上海 (しゃんはい) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.628 Zeichen · 292 Bildschirme
「あんた、急ぐの。」
春婦の一人が首を参木の方へ振り向けて英語で訊ねた。彼は女の二重になった顎の皺に白い斑点のあるのを見た。
「空いているのよ、ここは。」
参木は女と並んで坐ったまま黙っていた。灯を消して蝟集しているモーターボートの首を連ねて、鎖で縛られた桟橋の黒い足が並んでいた。
「煙草。」と女はいった。
参木は煙草を出した。
「毎晩ここかい。」
「ええ。」
「もうお金もないと見えるな。」
「お金もないし、お国もないわ。」
「それや、困ったの。」
霧が帆桁にからまりながら湯気のように流れて来た。女は煙草に火を点けた。石垣に縛られた船が波に揺れるたびごとに、舷名のローマ字を瓦斯燈の光りに代る代る浮き上らせた。樽の上で賭博をしている支那人の首の中から、鈍い銅貨の音が聞えて来た。
「あんた、行かない。」
「今夜は駄目だよ。」
「つまんないわ。」
女は足を組み合わした。遠くの橋の上を馬車が一台通って行った。参木は時計を出して見た。甲谷の来るのはもうすぐだった。彼は甲谷に宮子という踊子を一人紹介されるはずになっていた。甲谷はシンガポールの材木の中から、この濁った底知れぬ虚無の街の上海に妻を娶りに来たのである。