Japanische Klassiker mit Furigana
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ちぶさ
乳房
宮本 百合子
Lesen Sie 乳房 (ちぶさ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 27.932 Zeichen · 56 Bildschirme
重吉がやられた時、ひろ子は自分では十分落着いているつもりであったが、大谷の家の降りなれた階子の中途に下っている壁の横木へ、二度もひどく自分のおでこをぶつけた。その薄い傷あとを黙って見ていた大谷の眼差し。それから、
「まア、飯をたべて行きなさい」
と、チャブ台へ自然とひろ子を坐らした大谷のもの馴れた思いやりのこもった沈着さ。仕事で彼によって成長させられた色々の場面を考えると、ひろ子は、遂に彼のつかまったくちおしさで腹が震える感じであった。
いつだったか、ひろ子は大谷がもう少しであぶなかったところを、樹へのぼって助かったという話を誰かからきいた。ひろ子が面白がってその噂を重吉に喋り、
「ほんとにそんなことがあったの?」
と訊いた。重吉は、ひろ子の顔を一寸見ていたが、直接そのことがあったともなかったとも云わず、ただ、
「なかなか早業をやるよ」
そう答えて、愉快そうに笑った。ひろ子は、後々まで、そのときの重吉の返事のしぶりを思いかえして、心に刻みつけられるものを感じた。重吉と大谷とのつきあいの深さは、互の噂を個人的に喋り散らす以上のものであり、そういう友情が歴史を押しすすめるための大事な見えないバネとなっている、その値うちがひろ子にも近頃少しずつ分って来ているのであった。