Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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たにんのなつ

他人の夏

山川 方夫

Lesen Sie 他人の夏 (たにんのなつ) von 山川 方夫 (やまかわまさお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N3. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N3 · Mittel · moderne Kanji und Kana · 3.115 Zeichen · 7 Bildschirme

Aozora Bunko

ああ、と慎一は思った。彼は、その顔をおぼえていた。

今日、真赤なスポーツ・カーにひとりで乗ってきた女だった。目の大きな、呼吸をのむほど美しいまだ若い女で、同級生の兄は、あれは有名な映画女優にちがいないぞといった。

「……あなた、この町の人ね?」

女の顔は見えなかった。彼は答えた。

「そうです。だからこの海にはくわしいんです」

「漁師さんなの?」

「……親父が漁師でした」と彼はいった。「親父は、沖で一人底引き網をやってたんです。銛も打ったんです。二十八貫もあるカジキを、三日がかりでつかまえたこともあります」

自分でも、なぜこんなことをしゃべりはじめたのか、見当がつかなかった。

ただ、なんとなく女を自分とつなぎとめておきたかったのかもしれない。

「そのときは、親父も生命からがらだったんです。牛みたいな大きなカジキを、ふらふらになって担ぎながら、親父は精も魂もつき果てたっていう感じでした。……でもその夜、親父はそのカジキの背をたたきながらぼくにいったんです。おい、よく見ろ、おれは、こいつに勝ったんだぞ。生きるってことは、こういう、この手ごたえのことなんだよ。……あのとき、親父は泣いていました」