Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きずあとのはいけい

傷痕の背景

豊島 与志雄

Lesen Sie 傷痕の背景 (きずあとのはいけい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.022 Zeichen · 38 Bildschirme

Aozora Bunko

襟に赤と、肩に金線の、軍服をきて、サーベルの音をさして……。あたし、帽子をぬいで、丁寧にお辞儀をされて……びっくりしちゃった。」

「誰だい。」

「……アリヨシ……。」

「え、有吉……有吉が来たのか。」

「知っていらっしゃるの。アリヨシと、そう云えば分るって……。そしてまた、丁寧にお辞儀をして……。あの人、なあに?」

「少佐になったばかりの、なかなかやりてだ。何か云っていったのか。」

「何にも。ただ、また来ると……。」

「うむ……。」

「どうした人なの。」

「そら、僕が大変世話になった田代さん、その親戚なんだ。」

「あら、田代さんの……。あたしが逢って、悪かったかしら……。」

「ばかなことを……。」

「あなたと、懇意なの。」

「うむ……一寸した知り合いで……。」

それ以上、彼は有吉のことを云わないで、口を噤んでしまった。眼鏡の奥に眼の光を沈めて、心を遠くに走せて……。

二人の生活では、饒舌と沈黙とが急に移り変った。それが、いつしか習慣のようになっている。

窓硝子越しに、戸外はほのかに暮れていた。電燈の光が増した。英子は、有吉のことが気にかかりながらも、それを聞くには時機を待つがよいことを、本能的に感じて、と同時に、何だか薄ら淋しく、食事のことを思い出した。