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Japanische Klassiker mit Furigana

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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme

Aozora Bunko

しかしどこにも人影はない。月の光が蒼茫と前庭一杯に射し込んでいた。木立や家影を黒々と地に印しているばかりである。

葉之助はまたもゾッとした。「帰った方がよさそうだ」こう思わざるを得なかった。そこで彼は身を忍ばせ水狐部落を抜け出し、野良の細道をスタスタと湖水の岸まで引き返して来た。

一人の女が湖水の岸の柳の蔭に立っている。どうやら泣いているらしい。

「これ女中どうなされたな?」

葉之助は怪しんで近寄って行った。見れば美しい娘である。

「このような深夜にこのような所で、何を泣いておられるな?」

「はい」と云ったがその娘は顔から袖を放そうとはしない。白い頸、崩れた髪、なよなよとした腰の辺り、男の心を恋に誘い、乱らがましい心を起こさせようとする。

「どこのお方で何んと云われるな?」

葉之助は優しくまた訊いた。

「産まれは京都、名は水藻、恐ろしい人買いにさらわれまして……」

「いやいやそうではござるまい」鏡葉之助は静かに云った。

「生れは神宮寺、名は久田……」

「え?」と娘は顔を上げる。

「馬鹿!」と一喝、葉之助は、抜き打ちに颯と切り付けた。と、娘は狼狽しながらも、ピョンと背後へ飛び退くと、袖を手に巻きキリキリと頭上高く差し上げたが、それをグルグルグルグルと、渦巻きのように廻したものである。