Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme

Aozora Bunko

胸が恐ろしく波立って来た。そうして手先が幽かに顫え、燃えるように身内が熱くなった。

二

やっぱり二人は黙っていた。

もし迂濶に物でも云って、そのため楽しいこの瞬間が永遠に飛び去ってしまったなら、どんなに飽気ないことだろうと、こう思ってでもいるかのように、二人はいつまでも黙っていた。

若さと美貌と勇気と名声、これを一身に兼備している葉之助のような人物こそは、お露のような乙女にとっては、無二の恋の対象であった。ましてその人は家のためまた大事な父のためには疎かならぬ恩人である。――で、一眼見たその時から、お露は葉之助に捉えられた。時が経つにしたがってその恋心は募って行った。葉之助を家へ招くように父に勧めたというのも、この恋心のさせた業であった。

今こそ心中を打ち明けるにはまたとない絶好の機会である。場所は庭の中の亭である。すぐ側に恋人が坐っている。美しい夕月の宵である。二人の他には誰もいない。……しかし、彼女は処女であった。そうして性質は穏しかった。無邪気に清潔に育てられて来た。どうして直接に思う事を思う男へ打ち明けられよう。

葉之助にとってはこれまでは、このお露という美しい娘は淡い恋の対象に過ぎなかった。