Japanische Klassiker mit Furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme
しかし彼女はそんなこととは夢にも考えはしなかった。で、熱心に待っていた。
戸外では吹雪が荒れていると見えて、枝の折れる荒々しい音が風音に雑って聞こえて来た。
不意に彼女は顔を上げ窓の方へ眼をやった。
コトンコトンと音がする。
彼女は物憂そうに立ち上がり窓の戸を引き開けた。口の尖った、眼の優しい熊の顔が現われた。窓から覗いているのである。
山吹は寂しそうに笑ったが、
「おおおお今日も大雪で山には食物がないと見える」
こう云いながら鍋を取り上げ食べ残りの雑炊を投げてやった。と、熊の顔はすぐ引っ込みやがて雑炊を食べるらしい舌打ちの音が聞こえて来た。それが止むと同じ顔がまた窓へ現われた。
「もうないよ。あっちへお行き」
こう云いながら手を振ると、熊は二、三度頷いたが、スッと窓から消えてしまった。
そこで山吹は窓を閉じ元の場所へ帰って来た。じっと焚火を見詰めながら、また物思いにふけるのである。
夜は次第に更けて行った。
彼女はいつまでも待っていた。身動きさえしないのである。
その時足音が聞こえて来た。しかし人の足音ではない。シトシトシトシトと小屋の周囲をその足音は廻り出した。