Japanische Klassiker mit Furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme
乱れた白髪穢れた布衣、永い辛苦を想わせるような深い皺と弱々しい眼、歩き方さえ力がない。
「お姫様」と老人は声を掛けた。深みのある濁った声である。
「おお、お前は島太夫……何か妾にご用なの?」
「もうお休みでござりますか?」
「お祈祷も済んだし懺悔もしたし今日のお勤行はつとめてしまったからそろそろ妾は寝ようかと思うよ」
「それがよろしゅうござります。不吉の晩はなるだけ早くお休み遊ばすに限ります」
「え、不吉の晩というのは?」
老人は窓を指さしたが、
「ご覧あそばせ闇の湖に一つ点された赤い灯を……」
云われて柵はスルスルと窓の方へ寄って行った。後から老人もつづきながら、
「十四年前のある晩のこと、ちょうどあのような赤い灯が湖水を越えて行きましたが、よもやお忘れではござりますまいな? その時あなた様は今夜のようにやはりその窓でそのように湖水を眺めておられました。……お顔の色もお体も今夜のように蒼褪めて顫え、そしてお眼からも今夜のように涙が流れておられました。ただ今夜と違っておられます事は尼様達のお祈祷の代りに猛りに猛る武士のひしめきあらぶ声々が聞こえていたことでござります」