Japanische Klassiker mit Furigana
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やつがたけのまじん
八ヶ嶽の魔神
国枝 史郎
Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme
……お休みなさりませお姫様。不吉の晩でござりますから」
影のように現われた老人は、影のようにこの部屋から去ろうとしたが、ふと戸口で振り返った。
「思い出したことがござります。と申するは他でもござりませぬ。三点鐘のことでござります」老人は回想にふけるように、「十四年前二隻の船が湖水を渡って立ち去りました時、宗介様と夏彦様とがこのようにあなた様とお約束なされ、お誓い遊ばしたではござりませぬか――いつの日いかなる時を問わず闇の夜赤き灯火を点じ湖水を漕ぎ来る船にしてもし三点鐘を打つ時は……」
「私の許婚の帰った証拠!」
「また二点鐘を打つ時は……」
「夏彦様が帰った合図!」
「その通りでござります。今夜のような不吉の晩にはその鐘が不意に湖上から鳴らないものでもござりませぬ。よくよくご用心遊ばしませ」
足音を消して老人は廻廊の方へ出て行った。
後は寂然と静かである。
と、柵は身顫いをし物におびえたというように部屋の中を怖そうに見廻したが、ツト画像の前まで行き、夏彦の画像へ両手を投げ掛け譫言のように叫ぶのであった。
「夏彦様夏彦様、果たし合いにお勝ちくださりませ! そうしてどうぞ一刻も早くお城へお帰りくださりませ! 三点鐘の鳴らぬよう二点鐘の鳴りますように神様お加護くださりませ!」