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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひみつ

刺青・秘密

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme

Aozora Bunko

その晩私は、いつもよりも多量にウヰスキーを呷って、三友館の二階の貴賓席に上り込んで居た。何でももう十時近くであったろう、恐ろしく混んでいる場内は、霧のような濁った空気に充たされて、黒く、もくもくとかたまって蠢動している群衆の生温かい人いきれが、顔のお白粉を腐らせるように漂って居た。暗中にシャキシャキ軋みながら目まぐるしく展開して行く映画の光線の、グリグリと瞳を刺す度毎に、私の酔った頭は破れるように痛んだ。時々映画が消えてぱッと電燈がつくと、渓底から沸き上る雲のように、階下の群衆の頭の上を浮動して居る煙草の烟の間を透かして、私は真深いお高祖頭巾の蔭から、場内に溢れて居る人々の顔を見廻した。そうして私の旧式な頭巾の姿を珍しそうに窺って居る男や、粋な着附けの色合を物欲しそうに盗み視ている女の多いのを、心ひそかに得意として居た。見物の女のうちで、いでたちの異様な点から、様子の婀娜っぽい点から、乃至器量の点からも、私ほど人の眼に着いた者はないらしかった。

始めは誰も居なかった筈の貴賓席の私の側の椅子が、いつの間に塞がったのか能くは知らないが、二三度目に再び電燈がともされた時、私の左隣りに二人の男女が腰をかけて居るのに気が附いた。