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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひみつ

刺青・秘密

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme

Aozora Bunko

ちらり、ちらり、と、何度見ても容易に正体は分らない。ざあーッと云う松風の音の間から、カサカサと鳴る声がいよいよ繁く私の耳を脅かして居る。すると、そのうちに左の松原の向うの遠いところから、ど、ど、どどん―――と云うほんとうの海の音が聞えて来た。あれこそたしかに波の音だ。海が鳴って居るのだ、と私は思った。その海の音は、離れた台所で石臼を挽くように、微かではあるが重苦しく、力強く、殷々と轟いて居るのである。

浪の音、松風の音、カサカサと鳴るえたいの知れぬ物の音、―――私は時々ぴったりと立ち止まって、身に沁み渡るそれ等の音に耳を傾けては、又とぼとぼと歩いて行った。折々、田圃の肥料の臭いのようなものが何処からともなく匂って来るのが感ぜられた。過ぎて来た路を振り返ると、やはり行く手と同じような松の縄手が果てしもなくつづいて居る。孰方を向いても人家の灯らしいものは一点も認められない。それに、先からもう一時間以上も歩いて居るのに人通りが全くない。たまたま出会うのは左側の松原に並行して二十間置きぐらいに立って居る電信柱だけである。そうしてその電信柱も、あの波の音と同じようにゴウゴウと鳴って居る。